香油


香油の器は忘れられて、
それでいい。
女が、
かがみ込んでいる。

そこには、イエスが死者の中からよみがえらせたラザロがいた。
エスのためにそこで夕食が用意され、マルタは給仕をしていた。ラザロは、イエスと共に食事の席に着いた人々の中にいた。そのとき、マリアが純粋で非常に高価なナルドの香油を一リトラ持ってきて、イエスの足に塗り、自分の髪でその足をぬぐった。家は香油の香りでいっぱいになった。
ヨハネ12、1−3

どうなんだろ、
女がかがみ込んでいる姿を見ると、
いとおしくなるというのは。
だいたい女がかがみ込んでいるときって、
何かを世話しているとき。
赤ん坊を世話したり、畑の世話をしてたり、
あと、皿を洗っているときも、
背中をまるくしてかがみ込んでいる。
だから女の背中はまるい。
この仕草で思い出すのは、
最後の食事の後、
エスが弟子たちの足を洗う場面。
懐かしい人々の、一人一人のすぐそばに近づき、
足を洗う。
エスもかがみ込んで人々の世話をしている。
男のその姿のなかに、
心をかけて人を世話する女の姿が透けて見える。
香油を塗られているイエスの背中も、
きっと、
まるいと思う。