香口というのは…
父方の母、つまり祖母の苗字が香口という名だった。珍しい名だ。その上、きれい。
そもそもkarposの本名の姓自体にはあまり親近感がない。どうってことのない名だ。
父が亡くなるちょうど半年前、祖母の実家のあったところにドライブに行き(かなり田舎なのだが)山道を抜けて、開けた田んぼの広々とした風景を見て、単純に、あぁ、いいなぁと思った。この辺にはまだ香口さんという家があるんだろうという話をし、急激にこの名前に惹かれてしまった。
祖母、おばあちゃんの名は、コワキ。香口コワキ。花田植えの踊り子をしてたらしい。
春になると、山間の田んぼに花田植えの若い娘が出て踊りを披露する。
そこに、沿岸部の威勢のいい若い衆が、娘の踊りを見学に来るらしい。海の方から来た若い衆は肌も陽に焼け、やんちゃで、あっという間に娘たちを虜にする。花田植えの娘たちと海の若い衆。山の娘と海の若い男がこうしてあっという間に結ばれる。何組決まったんだろ。うちもそのケース。そんな物語が始まった場所に、最後に父とドライブした。半年後、まさか、自分も死んで、天国のお母ちゃんと会うことになろうとは、思ってもなかったと思うよ。
父はうちではパパさんと呼ばれていた。
パパさんはおばあちゃんが大好きだったのか。おばあちゃんがパパさんを好きだったのか。
亡くなる直前、パパさんの顔がおばあちゃんそっくりになった。
おばあちゃんが迎えに来たんだと思った。
顔と顔が合わさるどころか一つになった瞬間だった。
それから、だな。
わたしは香口という名前を得た。まだ、ネット上でしか存在してないが、
いずれ、香口けゑとしてリアル上に存在してみたい。
残りものとして。