銀貨


銀貨三十枚。




あの男をあなたたちに引き渡せば、幾らくれますか
と人は言った。
そこで、彼らは銀貨三十枚を支払うことにした。






銀貨が力を発揮する時が来た。
不思議な力だ。
銀貨は人間が造って、人間のために、人間のコミュニケーションの拡張のために用いられる素晴らしい機能なのだが、まったく不思議なことに、ある時、人間の手から離れ、銀貨独自の力のようなものが発動し、勝手に徘徊し、増殖したり、減少したり、まるで生き物のように、いや、人間のように意思し始める。
銀貨は人間を変える。
いとも簡単に変えてしまう。
神のふところにて、銀貨も役者のひとり。