倫理問題クリア

素晴らしい研究成果と、医療への貢献と、倫理問題と。
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「万能性に関係する4つの遺伝子を導入して万能細胞の作成」
倫理的問題を回避できる。ここでの倫理問題は何だったのだろう。これまで受精卵を使わないと無理だと考えられていたところを、それを使っていいのか?という倫理的問題があって二の足を踏んでいた。でも使わなくてもいいってことで、倫理問題は避けられるということなんだから、ここでいう倫理問題とは、受精卵ということだったんだな。
「倫理問題」とは「不可触」と同義語なのだろうか。だとしたら、それは倫理問題のある一側面しか捉えられていないような気がする。「倫理問題」は回避できるような問題ではないと思うのだがどうだろう。永遠に、どこまで行っても付きまとう、そういう問題なんじゃないか。
この素晴らしい研究の最初の発言に「倫理問題が回避できる」というコピーがついているのはどこか違和感があった。薬一つ投与するその行為にだって倫理問題はあり、誰かのいのちが始まったり、終ったりするその一瞬にだって倫理問題はあり、そしてそれらの医療行為を受けるわたしの方にも倫理問題はある。

ヒトの皮膚から万能細胞 京大チーム成功
11月21日5時46分配信 産経新聞


 ヒトの皮膚細胞から、あらゆる細胞に分化できる「万能細胞」を作ることに、京都大再生医科学研究所の山中伸弥教授らが初めて成功した。ヒトの胚(はい)性幹細胞(ES細胞)とほぼ同等の能力があり、受精卵を使わないため倫理的な問題も回避できる。患者の皮膚から移植用の臓器を作れる可能性があり、拒絶反応のない新たな再生医療の実現に道を開く画期的な成果だ。20日の米科学誌「セル」(電子版)に発表した。

 ES細胞は神経や筋肉、臓器などあらゆる細胞や組織に分化させることができ、再生医療への応用が注目されてきた。しかし、生命の萌芽(ほうが)である受精卵や卵子を壊して作るため、倫理的な問題が実用化研究に立ちはだかる厚い壁だった。

 受精卵などの生殖細胞ではなく、皮膚などの体細胞からES細胞と同じ性質を持つ万能細胞を作る研究で先陣を切ったのが、山中教授らの京大チーム。昨年、マウスの皮膚細胞に、万能性に関係する4つの遺伝子を導入して万能細胞の作成に成功。ヒトの細胞での実現に向けて、激しい国際競争が展開された。

 山中教授らは、マウスで成功した技術を応用して成人の皮膚細胞に同じ4つの遺伝子を導入し、ヒトの万能細胞を作ることに成功。「人工多能性幹細胞」(iPS細胞)と改めて命名した。タンパク質を作る主要な遺伝子が、ヒトES細胞とほぼ一致し、肝臓や心筋、神経、筋肉など約10種類の細胞に分化できることを確認した。

 米ウィスコンシン大などの研究チームも20日の米科学誌「サイエンス」(電子版)に、胎児などの皮膚から作った類似の万能細胞を発表した。

 今回の成果は、脊髄(せきずい)損傷や糖尿病、心臓病など多くの病気で再生医療への応用が期待される。患者と同じ遺伝子を持つ臓器細胞を作れるため、薬の効き目や副作用の診断などにも役立つ。

 山中教授は「再生医療というマラソンのゴールが見えてきた。10年以内に実現できるだろう。今後は研究体制の充実と適切なルールづくりが必要だ」と話している。
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 中内啓光・東大医科学研究所教授(幹細胞生物学)の話 「(体細胞クローン羊の)ドリーに匹敵する非常にすばらしい世界的な研究業績だ。ES細胞の倫理的、技術的な問題をクリアでき、理想的な再生医療の実現につながる。腫瘍(しゅよう)の可能性など安全性が課題だが、実用化までに10年もかからないだろう。今後は何らかの研究指針が必要かもしれないが、ES細胞のような厳しいルールはいらないと思う」